労働者の大きな悩みのひとつに、残業が挙げられます。日本において残業は長年問題になっており、さまざまな企業で残業削減の取り組みが実施されています。残業は従業員にとって多くの悪影響を引き起こすため、できる限りの対策が必要です。
今回は、残業の原因や解決策、日本の残業状況について詳しく解説していきますので、残業続きで困っている方や職場環境を整えたいと考えている方はぜひ参考にしてください。
目次
厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査」によると、令和3年12月の所定外労働時間は平均10.3時間です。令和3年の所定外労働時間は、以下のように変化しています。
年度 | 平均残業時間 |
---|---|
令和3年1月 | 9.2時間 |
令和3年2月 | 9.3時間 |
令和3年3月 | 10.0時間 |
令和3年4月 | 10.1時間 |
令和3年5月 | 9.2時間 |
令和3年6月 | 9.5時間 |
令和3年7月 | 9.8時間 |
令和3年8月 | 9.1時間 |
令和3年9月 | 9.4時間 |
令和3年10月 | 9.8時間 |
令和3年11月 | 10.2時間 |
令和3年12月 | 10.3時間 |
令和3年の残業を含む所定外労働時間は、おおむね9~10時間前後であることがわかります。出勤日数を1日20日とすると、毎日平均約30分は残業がある計算です。
残業時間は、過去に比べると少しずつ減少しています。その理由のひとつが、平成31年に施行された「時間外労働の上限規制」です。働き方改革のひとつの施策であるこの取り組みによって、毎月の時間外労働時間の上限が月45時間に制限されました。
「時間外労働の上限規制」が施行される前の所定外労働時間は以下のとおりです。
年度 | 平均残業時間 |
---|---|
平成27年 | 10.9時間 |
平成28年 | 10.8時間 |
平成29年 | 10.9時間 |
平成30年 | 10.7時間 |
上平成27年~平成30年の残業時間と令和3年の残業時間を比べると、働き方改革のおかげで残業時間が減少していることがわかります。
全体的に残業時間が減少しているからとはいえ、いまだに毎月10時間程度の残業が見受けられます。ここからは、残業が発生する5つの原因とそれらの解決策を見ていきましょう。
残業が起こるのは、仕事量と社員数の不一致によるものかもしれません。たとえば20人で行うのが妥当な業務を10人で取り組むと、一人当たり倍の時間がかかり残業が発生してしまいます。
特に一部の業界では深刻な人手不足が問題視されており、人手が足りず慢性的な残業が続くケースも少なくありません。
仕事量と社員数が合っていない場合、従業員の確保が必要ですが、人員確保は簡単なことではありません。すぐに人員が確保できない場合は、抱えている仕事を洗い出してタスク管理をすることが求められます。
特定の部署や社員に業務量が集中している場合は、業務を正しく割り振りし直すことが重要です。それでも業務量が減らない場合は、仕事自体を削減できないか、外部に依頼できないかをチェックしましょう。
社員一人一人に残業時間の削減意識がないと、仕事の効率が悪くなり生産性が下がります。一人の作業が時間内に終わらなければそれを引き継ぐ社員の作業も進められず、部署全体の進捗に遅れが生じてしまいます。
社員の労働生産性を高めるには、タスク管理に関する指導が重要です。毎日仕事に対するスケジュールを立て、時間通りに終わらせることを意識することで無駄な残業を回避できます。
また、業務のやり方に対する指導も効果的です。現在進めている業務のやり方が本当に正しいのか、より効果的な進め方はないのかを会社内で検討しましょう。改善できる箇所をその都度見直していくことで、社員一人当たりの生産性を高められます。
本来の業務以外の雑務が残業を引き起こしていることも珍しくありません。たとえば不動産営業の場合、商談など本来の営業活動の他に、報告書などの資料作成や経費精算などの雑務が発生します。
営業活動は顧客ファーストのため、通常の勤務時間のほとんどは顧客対応に充てられます。何らかのトラブルが発生して時間が取られると、細かい事務作業は業務時間外に処理しなければなりません。
メイン業務以外の雑務を減らすには、営業支援システムなどのツールの活用がおすすめです。面倒な経費精算も短時間で終わるため、移動時間などのすきま時間でも雑務を処理できます。
また、不要な業務を見直すことも重要です。たとえば社内での打ち合わせや朝礼など、日々のルーティンにたくさんの時間をかけている場合もあります。
社員が抱えている業務に無駄なものがないかを見直し、不要な業務をなくすことが残業時間の削減に繋がります。
マネジメント不足は、経営者や管理職が社員の業務量・業務内容・進捗状況などを把握していないことで生じます。残業が発生していても社員が声を上げることは難しく、経営者や管理職が気づかないとこの先ずっと残業が続いてしまう可能性があります。
残業時間の把握には、勤怠管理システムの導入がおすすめです。勤怠管理システムを活用することで勤務時間の可視化が叶い、残業が続いている社員の勤務時間を調整できます。
また、残業の発生に気づきながら適切な対策を行わないこともマネジメント不足のひとつです。残業の発生がわかった時点で、速やかに人員の再配置や業務量の調整などを行わなければいけません。
一部の会社には、「残業をして当たり前」という風潮があります。この風潮は、日本人の美徳とされている勤勉さや素直さなどが原因でできたといわれています。
残業が美徳とされている企業の場合、定時で帰宅する方よりも、長時間残業や休日出勤をしている方が幹部社員に抜擢されやすいです。他人よりも長く働くことが評価の対象と見なされ、「残業が当たり前」という風潮が根づきました。
会社の中で残業を推奨する雰囲気があれば、「残業を減らす」という考えは浸透していきません。そのため、社内全体で残業は決していいことではないという考え方を根づかせることが重要です。
そうすることで従業員の意識が少しずつ変わり、無駄な作業の削減に期待できます。
残業が多いと、従業員や会社にさまざまな悪影響を引き起こします。ここからは、特に大事な3つの問題を見ていきましょう。
残業が引き起こす大きな問題のひとつが、従業員の体調悪化・体調不良です。残業が続くとプライベートの時間が少なくなり、睡眠時間やリフレッシュする時間が削られてしまいます。
休息が取れないと心身の疲れが取れず、その結果体調不良を引き起こしてしまうのです。
また、長時間の残業は従業員のモチベーション低下の原因にもなります。十分な休息が取れないことで心身ともに疲弊し、モチベーション・作業パフォーマンスともに低下します。
作業パフォーマンスが低下することで、より多くの残業が発生する悪循環に繋がるのです。
サービス残業や隠れ残業でない限り、残業には残業代が発生します。残業代は1時間当たりの賃金プラス25%と定められているため、通常の賃金よりも多くの額を支払わなければいけません。
残業代が増えるとそれに付随する社会保険料なども増加する可能性が高く、残業人員が多い会社の場合、想像以上のコストが発生することも珍しくありません。
また、働き方改革に伴い、月60時間を超える場合の残業代は賃金プラス50%と改定されました。そのため、残業の時間が長ければ長くなるほど企業の負担は増えていき、経費の削減も叶わなくなります。
離職率とは、一定期間で離職した人数の割合です。たとえば、1年間で100名いた従業員のうち10名が離職した場合、離職率は以下の計算方法で求められます。
10(離職者数)÷90(残りの社員数)×100=11%
ただし、離職率は法律などで定義されていないため、決められた計算方法はありません。上記の計算式は、求人広告などで使われているものであり、あくまでもおおよその数値です。
残業が続けば従業員のモチベーションが下がり、離職率の増加に繋がります。離職者が増えれば増えるほど仕事量と社員数の乖離が進み、労働生産性が低くなるといった悪循環が続いてしまいます。
人員を確保するためには新たに採用活動を行う必要があり、その分のコストも支払わなければなりません。
日本においては、長時間労働が当たり前になっている企業が少なくありません。実際に他国との労働時間を比較しても、日本の労働時間が長いことがわかります。以下の表で、週の労働時間が49時間を超える人の割合を見ていきましょう。
全体 | 男性 | 女性 | |
---|---|---|---|
日本 | 15.0% | 21.5% | 6.9% |
アメリカ | 14.2% | 18.3% | 9.5% |
イギリス | 11.4% | 16.1% | 6.1% |
フランス | 9.1% | 12.3% | 5.7% |
ドイツ | 5.9% | 8.9% | 2.6% |
1週間に5日働くとして、1日平均9.8時間労働していると表にある49時間を超えます。諸外国と比較すると多い日本の労働時間ですが、なぜ週49時間を超える労働時間が多いとされているのでしょうか。
日本の労働時間は労働基準法で定められています。労働基準法で決められている1日の実労働時間の上限は8時間、1週間なら40時間です。そのため、先ほどご紹介した1日49時間以上の労働は9時間分の残業に値します。
しかし、業種や企業によっては、労働時間の厳守ができません。特に、業界ごとに異なる繁忙期であれば1日8時間を超えることも珍しくありません。そのため、従業員との合意によって法定労働時間の超過が認められる「36協定」が制定されました。
36協定を定めると、年720時間、月平均100時間までの残業が可能です。ただし、月45時間を超える残業は年6回と定められており、繁忙期以外では特別なことがない限り認められていません。
上記の時間を超えると、明らかな長時間労働として見なされます。
長時間労働が続くと心身の健康が損なわれ、過労死のリスクが高まります。過労死のリスクは、時間外・休日の労働時間が2〜6ヶ月平均で80時間を超えると高くなるといわれています。
しかし、時間外労働や休日労働が月45時間を超えた辺りから、過労死の原因となる健康障害のリスクが上昇するともいわれているため注意が必要です。
たとえ時間外・休日労働が月80時間を超えなくても、メンタル上のストレスから同等の疲労を感じることもあります。過労死を防ぐためにも、残業の削減は企業にとって重要な問題です。
業種や職種によって異なるものの、長時間の残業は以下の原因で発生するといわれています。
それぞれの問題に対して適切な解決策を講じることで、残業を減らすことができます。残業が続くと、体調不良や早期離職などさまざまな問題が発生します。
残業続きで困っている方は自身の生産性を上げる工夫を行う他、社員全員が働きやすい職場となるよう上司に相談してみてください。
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